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特集 精神科治療の奏効機序
[感情障害の治療]
抗躁病薬リチウムの作用機序—細胞内シグナリング系への作用を中心にして
The Mechanism of Effects of Lithium on Manic Disorders
東田 道久
1
,
野村 靖幸
1
Michihisa TOHDA
1
,
Yasuyuki NOMURA
1
1北海道大学薬学部薬効学教室
1Department of Pharmacology, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Hokkaido University
キーワード:
Lithium
,
Action mechanism
,
Intracellular signalling
Keyword:
Lithium
,
Action mechanism
,
Intracellular signalling
pp.27-31
発行日 1994年1月15日
Published Date 1994/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903583
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リチウムの躁状態に対する効果は,1949年にオーストラリアのCadeにより報告されており,その後,1967年デンマークのSchouらが各種実験データーを重ね,躁病治療薬としての地位を確立した。今日では炭酸リチウム錠として広く用いられ,感情障害に対する治療効果を挙げている。
リチウムは,水素,ヘリウムに続く原子番号3の原子であり,1価の陽イオンとして生体内に存在する。したがって,言うなれば,薬物としては最も簡単な構造を有する物質であるにもかかわらず,治療の用量範囲においては末梢作用がほとんどなく,中枢作用のみを現す極めてユニークな物質であるといえよう。これは,後に詳述するが,イノシトール供給系の末梢と中枢とにおける違いに起因するものと考えられている1)。また,加えて,中枢作用も正常人ではほとんど現れず,躁病的状態下においてのみ薬効が認められる点も極めて好都合な薬剤といえる。しかしながら一方で,リチウムは1価の陽イオンであることから,用量が増え中毒域になるとNa+やK+などの生理的なイオンの動態に影響を及ぼすことにより,振戦・運動障害,心電図異常などの副作用をもたらすことがあり,しかも中毒に対する特異的な解毒薬もなく,体内からの排出を待つしかない点では,危険な薬物でもあり,劇薬,要指示薬に指定されている。
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