シンポジウム 精神障害者の権利と能力—精神医学的倫理のジレンマ
精神障害者の権利と能力
原田 憲一
1
Kenichi HARADA
1
1神奈川県立精神医療センター
1Kanagawa Prefectural Center of Psychiatry
pp.860
発行日 1993年8月15日
Published Date 1993/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903500
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「患者の権利と能力」の問題は医学的倫理のジレンマである。それは幼児の医療やせん妄状態の患者の医療を考えればすぐわかる。そこでは,どこまでその患者は自分の本来の意思を示す能力を持っているのか。持っていなければ誰がどのようにして患者の権利を守り主張すればよいのか。
「精神障害者の権利と能力」の問題はさらに大きなジレンマを精神医学的倫理に突きつける。体の病気の時にはそれでも,何らともあれ「生命を救う」ことで多くの人の意見は一致できる。生命を救うことが医学の使命であるし,人々が医学にそのことを委託しているのである。その他のことは,病気から回復してから患者本人が決めればよい。生命あっての物種である。何百年かの間,人間社会で当然とみなされてきたこの考えが,近年尊厳死や「死ぬ権利」の主張などに代表されるように,少なからず揺らいでいるとはいっても,しかし,権利,能力の議論の前にまず生命が大切ということについて,なお多くの人はうなずくだろう。
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