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■時代精神の変化と宗教病理
宗教病理の現在について論じる際には,次の2つの側面があることをまず注意しなければならない。それは,①宗教的病態の変化,②宗教精神病理学の変遷とその現状の両側面である。この両者はしかしながら,共通の時代精神と文化状況に支えられているのである。それは何といっても,いわゆるポストモダンの時代精神であって,一方では,近代合理主義のエートスが相対化され,批判の対象とされることになるとともに,「精神医学モデル」に従って,宗教現象を非合理なものとして裁断し,その「病理」を研究するという視点が批判され,相対化されることになる34,41)。他方「こころの時代」と呼ばれるように,人々の関心が物質から精神世界に向かい,宗教のみならず様々の精神世界を追究する運動を生み出し,その中で,病態がそれと鑑別を要する多様な現象を生み出している。
現代は,情報化された豊かな管理社会と名づけることができるであろう。このことは,様々の情報テクノロジーの導入をもたらした。それは,人間性に対する影響としては,人間性に対して,情報メディアが作り出す擬似環境(pseudo-environment)や仮想現実(virtual reality)の比重の増大,つまり,手に触れることのできる一次的・直接的な環境よりも,作り出された情報環境の比重が増大するという結果をもたらした。その結果,神秘主義や超常現象に対して,産業化社会に生育した人たちが持っていた違和感をある程度取り除いた。他方,それは,数量化,統計化といった手法が社会の様々の領域に浸透し,人間が情報管理され,支配・操作されるという結果をももたらした。これらの変化が,宗教精神病理学研究および宗教的病態にどういう変化をもたらしたかを検討してみよう。
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