「精神医学」への手紙
Letter—クモ膜のう胞の精神症状について
仙波 純一
1
,
秋山 正則
1
1東京医科歯科大学
pp.54
発行日 1993年1月15日
Published Date 1993/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903380
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クモ膜のう胞は剖検で稀ならず発見されるが,ほとんどが無症状で経過するとされる1)。実際,クモ膜のう胞の精神症状について報告されることは稀である。また植田ら2)や野崎ら3)の報告をみても,その症状は多彩かつ非定型なものが多いようである。我々は,定型的な精神分裂病に巨大なクモ膜のう胞を合併した症例を経験したので,本欄を通じて報告し,両者の合併率が意外に高い可能性への読者の関心を促したい。
症例は入院時28歳の男性。4年前から,顎関節の異常体感を訴えたり,突然プロテニスプレーヤーになると言って会社を辞めるなどの唐突な行動が多くなる。皇族が自分のプレーを監視している,自分のせいで湾岸戦争が始まったなどの注察・誇大妄想が出現し,その後次第に無為自閉的な傾向が強まったため入院となる。抗精神病薬投与により,約8カ月で徐々に自発性が回復し退院となった。たまたま,MRIで左中頭蓋窩に約5×5×4cmのクモ膜のう胞が発見された。本症例は脳波異常や神経学的症状を呈さず,また症状や経過を見ても定型的な精神分裂病と診断される。クモ膜のう胞はルーチンのCTでは見逃されやすいので,今後MRI検査が一般的になれば,定型的な精神分裂病との高い合併率が求められる可能性がある。正確な合併率が求められれば,クモ膜のう胞と精神症状との関連について新たな見解も提起されることになるであろう。
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