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■はじめに
アルコール依存をはじめとする精神活性物質常用障害が,精神分裂病,気分障害,不安障害など他の精神障害と合併することは,日常的な臨床の経験から言っても稀ではない。すでに,Bowman-Jellinek3)の古典的な分類でも,「schizophrenicdrinker」が「症候性飲酒者」の下位類型として位置づけられている。このほか「schizophrenic substance abuser」「schizopaths」「3D patients(drinking,drugging,disturbed)」など,様々な呼称が用いられているが,最近では「dual diagnosis(二重診断例)」として範疇化され,標準的な成書11,12,21)に採用されているので,拙論もこれに従う。
その場合,長期にわたる精神活性物質の常用によって,稀ならず器質性精神障害(中毒性精神病)が惹起され,とりわけそれが生体内での薬理効果を超えてなお持続する場合,内因性の精神病との鑑別に苦慮する事例が存在し,事態を複雑にしている。dual diagnosis(以下二重診断例とする)に関するLehmanら19)の類型化仮説によると両者の症状が重複して出現する病態として,①一次性精神疾患に薬物乱用を合併した群,②薬物乱用に精神医学的後遺症状が生じた群,③二重(一次性)診断例,④両疾患に共通する成因を持つ状態(例えばホームレス)が挙げられている。ただLehmanらの類型化仮説に従った場合でもなお,「精神症状が真に薬物乱用の後遺症として出現しているのか?」「薬物乱用は精神疾患の結果として把握できるのか?」といった数々の疑問が生じてくる。二重診断例は疾病分類学上のアポリアに位置し,多くの問題をはらんでいるが,紙幅の関係からそれについての前提的議論は省略する。
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