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はじめに
猪瀬正は,1937(昭和12)年に東京帝国大学医学部を卒業後,内村祐之教授が主催する精神病学教室に入局し,その後東京都立松沢病院にて精神神経医学の臨床経験を積み,神経病理学研究に従事し,1954(昭和29)年に横浜市立大学医学部精神医学教室の教授に就任し,1977(昭和52)年に退職するまで同精神医学教室の基礎を築いた。その後,所長として国立武蔵療養所に迎えられ,わが国の精神神経医学の発展に貢献した。猪瀬の経歴については,ここでは簡単に表に呈示するにとどめ,詳細については筆者6)の論文を参照されたい。
さて,「猪瀬」と言えば,「猪瀬型肝脳疾患」と言われたほど,猪瀬正は猪瀬型肝脳疾患の発見者としてよく知られている。
猪瀬は,1950年に有名な「錐体外路性疾患の病理知見補遺:肝脳変性疾患の一特殊型」という論文1)を精神神経学雑誌に発表した。この論文では,猪瀬自身が経験した4症例の臨床病理学的報告に基づいて,新しい疾患概念として「肝脳変性疾患特殊型」を提唱した。2例は戦争に行く前に東京都立松沢病院で経験した症例であり,2例は終戦後に同病院で経験した症例であるという。この論文は,「内村教授指導」と書かれているように,猪瀬の医学博士論文である。
この疾患はその後,内村により猪瀬型肝脳疾患と命名され,一疾患単位としてわが国で広く知られるようになった。さらに,これは,2年後にイギリスのJ. Neuropathol. Exp. Neurol. に“Hepatocerebral degeneration:A specialtype”というタイトルで報告され2),さらに追加所見として,特にグリコーゲンの所見をドイツの雑誌に報告した3)が,残念ながらこれらの業績は国際的に注目されるまでには至らなかった。
もう一つの猪瀬の重要な論文は,1955年に精神神経学雑誌に発表された「老人脳の病理」という論文4)である。
ここではまず,1950年に精神神経学雑誌に報告された論文について紹介し,次いで1955年に同雑誌に報告された論文を紹介する。
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