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はじめに
最近,青少年の犯罪があいついで報道され,「17歳の犯罪」と呼ばれて社会的問題になっている。2000年に起きた主な事件を列挙しても,東京・夢の島公園の中学生による殺人事件(2月),名古屋市の中学校同級生による恐喝事件(4月),茨城県の17歳の少女による軟禁・両耳切り落とし事件(4月),豊川市の高校生による主婦殺人事件(5月),佐賀市の高速バス乗っ取り事件(5月),大分県野津町の高校生による一家6人殺傷事件(8月),高校生による新宿歌舞伎町のビデオショップ爆破事件(12月),兵庫県御津町の18歳の少年と女子高校生によるタクシー運転手刺殺事件(12月)などが起きている。あまりに理解しがたい唐突な行動であるためにおとな達はとまどい,子ども達にいわれのない恐怖心を抱いている11)。
青少年犯罪については,多くのジャーナリストが長期にわたる綿密な取材を行い,さまざまなレポートを発表している。一方,児童精神科医は,まさに「臨床」という視点をとり続けるために,犯罪を犯した青少年に会い,彼らおよびその家族から必要な情報を得なければ診断はできず,論評は差し控えるという立場をとってきた。新聞報道による断片的な情報では,さまざまな診断概念が想定され,感覚的にどの概念に該当するケースかというイメージは浮かんでも,それを公にすることにためらいを抱いてしまう。このために,「子どもが犯す犯罪なのだから,児童精神科医はもっと大胆に見解を公表すべきである」と批判されることもある。
このような青少年の犯罪が起きるたびに,事件の成り立ちや犯罪を犯した青少年の心理状態についてのさまざまな論評がマスコミで取り上げられ,行為障害,解離性障害,境界例,さらにはアスペルガー障害などの診断名が新聞紙上をにぎわす。そして,わが国においては児童青年精神科医療が未だに確立されておらず,欧米諸国からすでに半世紀もの遅れをとってしまったことが報道されるようになった。ここでは青少年犯罪を語る前に,児童青年精神医学の視点から,最近の青少年のこころの問題を考えてみたい。
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