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はじめに
1999(平成11)年12月1日,「民法の一部を改正する法律」,「任意後見契約に関する法律」,「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律等の整備等に関する法律」,「後見登記等に関する法律」の4法が成立し,これらの法律に基づいて,2000(平成12)年4月から,新しい成年後見制度がスタートした。いうまでもなく,新しい成年後見制度の成立を促したのは,わが国社会の急速な高齢化である。2000年のわが国の65歳以上人口は17.2%,75歳以上の後期高齢者だけでも7%を占めると推定されている5)。65歳以上の高齢者のいる一般世帯の状況を,1985年と1995年の10年間で比較すると,夫婦のみの世帯が17.8%から23.8%に,単身世帯が12.7%から17.2%に増加している。高齢者数の増加を勘案すると,1985年から1995年までの10年間に,老夫婦のみの世帯,高齢者の単身世帯がそれぞれほぼ倍増した計算になる13,14)。高齢者の増加,特に高齢者のみの世帯に住む高齢者の激増は,従来は家族の中に埋没していた高齢者の財産の管理や運用の問題を顕在化させた。斎藤12)の調査によれば,痴呆症の高齢者を抱える家族の多くは,不動産の売買のような重要な財産行為であっても,特別の法的手続きなく家族が行えばよいと考えているが,こうした考え方は,高齢者のみの世帯では通用しにくい。高齢社会,高齢者世帯において,高齢者は,自らの意思で自らの財産を管理し,自らの生活を守っていかなければならない。成年後見制度は,こうした社会の変化に,財産管理の側面から対応しようというものである。
成年後見制度と時を同じくしてスタートした介護保険制度も,同じ社会の構造変化に,別の角度から対応したものだと言える。介護保険制度は,従来,行政措置として提供されてきた高齢者福祉サービスを,契約に基づいて購入されるサービスへと変換させた。行政措置によるサービスの提供は,家族内で介護力を確保できない社会的弱者を救済するという古い福祉の概念の中の制度であったが,介護保険を使って購入されるサービスは,すべての国民が必要に応じて購入するものであるから,もはや弱者救済の制度とは言えない。しかしながら,現実問題として,介護を必要とする高齢者は,身体または精神の機能に障害を持ち,脆弱な存在であることには違いがないから,こうした人たちを制度的に支援する枠組みがないと,介護サービス提供者と,サービス利用者が対等な関係に立つことはできない。介護保険制度と相前後して創設された地域福祉権利擁護事業15)は,必要な援助を提供することによって,高齢者や障害者の生活の上での自律をできるかぎり拡大しようという趣旨の制度である。
本来,財産と生活のマネジメントは切り離して考えることのできないものである。したがって,成年後見制度,介護保険制度,地域福祉権利擁護事業は,互いに深く関連し合った制度であるべきである。成年後見制度では身上監護義務が強調され,地域福祉権利擁護事業では,成年後見制度との連携が強調されているが,両制度の連携は,抽象的なうたい文句のみで,具体的な連携の方法に配慮した構造にはなっていない。地域福祉権利擁護事業と成年後見制度の関連については,別の機会に論じているので,ここでは成年後見制度に的を絞って,精神医学的な観点から考察を行う。
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