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はじめに
人類は24時間社会を手に入れた。しかし一方で睡眠を取り巻く環境は一気に悪化した。照明は都会から闇を奪い,インターネットを通して昼夜を問わず世界中を駆けめぐる情報に皆が翻弄され,夜勤の必要な職種は激増した。地球という約24時間の明暗リズムを持つ環境で生物「ヒト」は誕生し,育まれてきた。そのような「ヒト」にとって現在の環境変化はどのような影響をもたらすのであろうか。この環境を作り上げ,謳歌している現在の我々世代はよしとしよう。問題は,我々が次世代を担う今の子どもたちに,このような劣悪な睡眠環境を連日無防備に甘受・あるいは強制させているという点にある。この睡眠環境の変化は今の子どもたちを対象に壮大な人体実験を行っているに等しいのではないだろうか。あるいはヒトは,その誕生以来経験しなかった環境の激変にも柔軟に対応できるすばらしい生物なのかもしれない。しかしそのように信じ,今の睡眠環境を見過ごすには事はあまりに重大すぎると感じる。子どもたちをこの劣悪な睡眠環境から守り,救う義務があると考えてしまうのは私だけであろうか。
本稿には子どもの睡眠障害を概説5,6)する意図はない。本稿では現在の子どもたちの睡眠にかかわる問題点を提起したい。キーワードは遅寝遅起き,睡眠負債,睡眠時無呼吸,生活習慣病,キレル子どもたちである。実は現在の子どもたちの睡眠にかかわる最大の問題点は,本稿で指摘する事項が一般的には問題点として認識されていない,という点にある。その結果対策もなんら打ち出されていないのが現状である。確かに睡眠の問題はあまりに日常的すぎて,何が問題なのかを把握することが難しいという問題もある。しかし睡眠の危機はとりもなおさず覚醒の危機である。病的な覚醒しか確立できなかった次世代に,私は自らの老後を託したくはない。次世代を担う子どもたちが,さわやかに未来を語れる覚醒環境を何とか保証したい。本稿が問題意識の喚起に多少とも寄与できれば幸いである。
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