特集 災害精神医学—自然災害,人為災害,感染症パンデミックとこころのケア
特集にあたって
中尾 智博
1
1九州大学大学院医学研究院精神病態医学
pp.267
発行日 2023年3月15日
Published Date 2023/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206861
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生してから早3年が過ぎた。発生当初の身体疾患の重症化や死の恐怖に加え,度重なる緊急事態宣言に代表される社会活動の制限によるストレス,経済不況の心理的影響,そしてLong COVIDといわれる罹患後症状としての精神症状など,COVID-19が私たちのメンタルに与えた影響は計り知れないものがある。
今回のような感染症パンデミックによる甚大な被害は,5億人が感染し数千万人規模の死者を出したおよそ百年前のスペイン風邪の流行まで遡るが,実は私たち人類の歴史は,感染症以外にも,地震,津波,火災,さらには戦争,テロ,放射能汚染など,自然災害,人為災害を含むあらゆる種類の災害との闘いの歴史と言ってもよいであろう。そこには常に,災害が人々のメンタルに与える深刻な被害があり,現代精神医学の発展とともに災害精神医学も発展を遂げてきた。災害精神医学における代表的な介入方法にはサイコロジカルファーストエイド(PFA)と呼ばれる心理的応急処置介入があり,医療関係者だけではなく防災,教育,治安,行政,産業の従事者,ボランティア関係者にも広く普及しており,これまで2001年の米国同時多発テロなど,多くの災害場面で活用されている。多くの人々の心理面に強い打撃を与える災害への対応は,今後も精神科医療が取り組むべき重要なテーマの1つと言えよう。
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