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はじめに
シュナイダー10)は内因性精神病を躁鬱病と総合失調症という類型に分ける二分法の立場にたち,横断的側面である状態像に拠り統合失調症の診断を行った。シュナイダーは臨床的経験に基づき統合失調症に特異的な症状として一級症状を提唱した。提唱した当初は,一級症状が存在し,さらに身体的基盤が不明であれば臨床的に統合失調症であるとしている。その後,一級症状はその有用性が注目され,英米圏の操作的診断基準であるRDC(Research Diagnostic Criteria),DSM-Ⅲ,DSM-Ⅳにも採用された。
しかしその一方で一級症状の診断的特異性についての議論があり,たとえば気分障害,解離性障害などにおいてもみられ得るとの研究も現れ9,17),その診断特異性を疑問視する見解もある。そのような経緯もあり,DSM-5では一級症状は特別視されなくなったが,精神疾患全体を連続体とみなすスペクトラム化,ディメンジョン化の流れも影響していると考えられる。つまり,カテゴリカルな疾患というものの存在を認めず,一級症状のような特異的な症状というものを認めないという立場の表明である。
ところで本邦固有の問題として,シュナイダーの臨床精神病理学12,13)の中の統合失調症の診断の記述における“in aller Bescheidenheit”という表現を“きわめて控えめに”と解釈し,一級症状の特異性について,そもそも慎重な態度をとってきたという歴史がある15)。しかしこの解釈は,あえて一級症状というものを提唱したシュナイダーの本意に反するものと考えられ,本稿では,本邦における“in aller Bescheidenheit”についての慎重な解釈が本当に妥当なのかをシュナイダーの文献を基に検討する。
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