Japanese
English
特集 精神医学と神経学の境界領域—最近のトピックスから
抗NMDA受容体脳炎と精神症状
Anti-NMDA Receptor Encephalitis and Psychiatric Symptoms
筒井 幸
1
,
神林 崇
1,2
,
田中 惠子
3,4
,
清水 徹男
1,2
Ko TSUTSUI
1
,
Takashi KANBAYASHI
1,2
,
Keiko TANAKA
3,4
,
Tetsuo SHIMIZU
1,2
1秋田大学医学部附属病院精神科
2筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構
3金沢医科大学総合医学研究所
4金沢医科大学神経内科
1Department of Psychiatry, Akita university Hospital, Akita, Japan
2International Institute for Integrative Sleep Medicine, Tsukuba University
3Medical Research Institute, Kanazawa Medical University
4Department of Neurology, Kanazawa Medical University
キーワード:
Anti-NMDA receptor encephalitis
,
Malignant catatonia
,
Paraneoplastic neurological syndrome
Keyword:
Anti-NMDA receptor encephalitis
,
Malignant catatonia
,
Paraneoplastic neurological syndrome
pp.795-801
発行日 2015年10月15日
Published Date 2015/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204999
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はじめに
2007年Dalmauらにより,抗N-methyl D-aspartate(NMDA)受容体脳炎という新たな疾患概念が提唱された1)。本疾患は辺縁系を首座とする自己免疫性の脳炎で,意識障害のほか精神症状,けいれん発作,自律神経症状,不随意運動などの多彩な症状を呈する。当初本疾患は卵巣奇形腫を伴う傍腫瘍性の辺縁系脳炎と考えられたが,その後症例数が増えるにつれ腫瘍を伴わないケースも多く指摘されるようになった。
本疾患は経過中に気分の変調や統合失調症を疑わせる精神症状を呈することが多い。このため,精神科が関わる頻度が7割を超える器質性精神疾患である7)。特に,昏迷やカタトニア症状を伴う初発の統合失調症や気分障害との鑑別が重要であり,病期が進行し全身状態の増悪を生じる一連の特異的な経過が悪性緊張病(致死性緊張病)と非常に類似していることも,我々精神科医にとっては興味深い点である。
現時点での症例数は限られるものの,経過を通して精神症状のみ,てんかん発作のみ生じるケースの存在も知られている1,6)。また典型例であってもMRI上異常を指摘されないケースが3割存在し,MRI所見が正常で精神症状のみを呈する場合は,自己免疫性辺縁系脳炎の可能性が見逃されている可能性も示唆されている6)。
本疾患は神経内科領域においてその認知が進み,自己免疫性辺縁系脳炎の代表的な疾患という座を得た。精神科領域においては,症例の掘り起こしと解析により今後新たな知見が得られる可能性のある,注目すべき疾患であるといえる。
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