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今日,一般の精神科診療においても発達障害の比重が増えつつあることから,児童精神医学に対する関心と期待がかつてないほど高まっている。ところが,初めて児童精神医学を学ぼうとする者が戸惑うのは,その基本となるパラダイムが複数あり,統合されていないことである。まず,わが国では,従来から,力動精神医学の立場から子どもの精神発達を理解しようとする児童精神科医が少なくない。一方では,小児心身医学や小児神経学など,小児科領域から児童精神科医になった人たちもいる。さらに,近年の自閉症スペクトラムの病態の理解や支援には,TEACCHに代表される臨床実践の背景があるし,発達に関する認知心理学の進歩も目覚ましい。果たして,どこに基軸を置くことが最も適切に児童精神医学の基本を学ぶことになるのだろうか。Mahlerの分離-固体化理論を理解することと子どもの神経発達を理解することと,どちらが児童精神医学の基本であろうか。
本書は,こうした児童精神医学の初心者の悩みに対して最良のガイドブックとなってくれるだろう。もともとは国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科において実施されてきた小児精神医療の専門家養成のための研修コースのテキストを資料としている。内容は総論と各論に分かれ,総論では子どもの精神発達や神経発達,母子関係など,児童精神医学の基本概念を扱い,各論は子どもの精神疾患や特有の臨床的問題(虐待や不登校など),検査,ケース・フォーミュレーション,治療介入技法,連携機関などを網羅している。特筆すべきは,各項目は,要約,理解度を点検するためのチェックリスト,視覚的な自由ノート,初級・中級・上級からなる研修の達成目標,および引用文献と推薦図書という決まったフォーマットにより構成されている点である。きわめて簡潔ながら児童精神医学を学ぼうとする者に必要なマイルストーンが明確に示されている。
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