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はじめに
最近数年のうちに,薬物乱用・依存の領域に新たな現象が起きている。元来,薬物乱用・依存の問題といえば,覚せい剤や大麻などの違法薬物が代表的であったが,最近では,違法ではない,あるいは違法性の不明瞭な薬物の問題が深刻である。その中には,すでに睡眠薬・抗不安薬や鎮痛薬などの医療機関で処方される薬剤,あるいは市販の鎮咳薬・感冒薬といったものがあるが,特に深刻な社会問題を引き起こしているものが,本稿の主題である「危険ドラッグ」である。
危険ドラッグとは,既存の規制薬物の化学構造式を一部変更することで法規制を回避した薬物の総称であり,規制薬物と同様に,高揚感や多幸感などの効果,あるいは中毒症状や依存性といった有害性を持っている。これまでこうした薬物は,薬物検出検査では検出されず検挙困難であることを理由に,「脱法ドラッグ」と通称されていた。しかし,この名称ではそれらの物質に内在する深刻な健康被害が十分に伝わらないという判断のもと,厚生労働省は2014年より,公募結果を参照した上で「危険ドラッグ」という呼称に変更した経緯がある。
現在,わが国では,危険ドラッグ使用に関連するさまざまな健康被害や社会問題がメディアを賑わせており,国や自治体はその対応に追われている状況にある。臨床現場の混乱も深刻である。そもそも,含有成分はもとより,危険ドラッグ使用による健康被害や精神症状の詳細についても未知な部分も多く,医療関係者は文字通り「徒手空拳」での戦いを強いられている。また,度重なる法規制の追加が,かえって「何が違法で,何が違法でないのか」の判別を難しくしている点も,混乱を深める一因となっているように思われる。
そこで本稿では,今後,危険ドラッグに関して求められる研究や施策上の課題を明確にする一助とすべく,これまで危険ドラッグに関して国内外で分かっていることを整理してみたい。
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