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昭和59年3月に定年退職したが,顧みると,昭和16年12月大東亜戦争勃発により予定を早めて卒業,翌日京大精神科に入局して以来40年余り,その間精神医学の領域でも自分なりに色々の変遷を経験した。その中,2〜3紹介したい。
周知の如く,精神病特にいわゆる内因精神病の分類に関して,その当時も今も,精神分裂病と躁うつ病とに2大別されている。ところで,精神分裂病というのは大学病院の外来患者の中でも大きな比率を占め,特に精神病院の入院患者の中では大きな部分となっていた。言うまでもなく,この分類は単なる臨床・類型的なもので,その頃精神障害の原因となりうる身体因もあまり知られていなかったようである。いわゆる症状精神病としても,昨今ではむしろ稀となっている急性感染症を中心とするものだけがまかり通っており,幾つかの器質精神病は日本には存在しないと言われていた。入局した当時よく「患者が診察室に入った途端に,第一印象で診断がつかないようでは一人前ではない」と言われたが,学会でも問題になった「プレコックス感」とは,中核群分裂病に関するものではなかったかと思え,いずれにしても,診断において印象・記述が問題になる程に精神病の種類が少なかったことを裏書するといえよう。また,類型的な概念による疾患の中には,通常同一疾患の中に孤発例の他,劣勢遺伝例や優勢遺伝例の存在,即ち異種因子性の認められることがあるが,分裂病の場合もそうで,孤発例や劣勢遺伝例には中核群分裂病が,優勢遺伝例には非定型内因性精神病が多いと言われる。その後,分裂病の近親発病例に関し,同胞発病例には中核群分裂病が,親子発病例には非定型群に属する例の多いことが知られているが,同じ理由によるといえる。
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