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周知のように,地域ケア的とりくみは,医療に加え患者の生活が成り立つための,様々な条件に見合った配慮が要請される。精神衛生センターでは,業務の一環に個別的あるいはグループとしての事例援助に関する精神衛生コンサルテーションを担当する機会が多い。コンサルティーの職種は多彩であるが,一緒に事例を検討している際に気がかりなのは,患者をめぐっての事態がまだ十分納得できてないのに,対応の仕方,処遇方針などのKnow-Howのみが端的に求められることである。多忙な業務のなかで,効率的に行うために手早く一件落着の必要はあろうが,事後の援助や地域での評価に照合して,果して適切かどうか疑問は残ろう。もちろん,緊急対応を迫られるものもしばしばであり,客観的緊急度と問題提起者の主観的緊急感とを判断し,即時の具体的手立ても問われることとなる。当然援助の手順も現場では独自に決めねばならぬことも日常的といえる実情にある。それだけに,日頃のとりくみもルチン・ワークで済ましてばかりはおれない。初期の働きかけの齟齬から,第一ボタンの掛けちがいといった事態をみるのも決してまれではあるまい。こうした検討の場は,時機を失せぬ積極性と細心な配慮に向け,事例ごとのきめこまかな対応を求めるためにある。しかし,コンピューター化時代とはいえ,援助活動は一義的に能率化,省力化,合理化になじむものではない。心理的エネルギーの経済にはなるかもしれないが,個々の援助的関わりが,パターン化思考でセットされることは避けたいものである。事態をとらわれのない目で確かめる基本的構えは失うべきでないといえよう。コンサルテーションか,コンサルタントとコンサルティーとの両者間に同時進行する相互作用であるとの認識に立つとき,技術援助を標傍する立場にとっても,上述したことは大きな課題となるものである。そうした意味で,ここでまずは当面することの多い事態について3点にわけ,見落されがちな問題にふれてみたい。
第1には,地域的とりくみでは,現場の特異性による相違はあるが,援助対象の幅が広く,患者をめぐって関わり方に困惑している家族,近隣,職場などの関係者への支援が大きなウェイトを占めることが多い。したがって援助者側への役割期待が多様であり,その心算りがないと役割関係の相補性を無視することとなり,援助の進展が妨げられる結果ともなる。また,「精神衛生」という言葉が多様に解され,求められる問題も多岐にわたりやすく,その境界や優先性を見失うおそれも生ずる。拡散する場合には,市民としての,人間としての責任範囲まで引き受けかねないこととなろう。新しい社会のニードに応えるべき立場にある以上,その対応には限界や不備な点への吟味を経て,実践に移す周到さは必要であるといえよう。一時的な評価は得るとしても,本来の目的を見失うことであってはなるまい。
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