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薬物の睡眠に及ぼす影響についての研究は,ポリソムノグラフィによる客観的な計測ができるようになり著しい進展をみた。多くの睡眠薬は一部のbenzodiazepine系睡眠薬を除いて,睡眠の質を変えるし,長期連用後に服薬を中止するとレム睡眠の反跳増加を示し,その際に悪夢が多くなることが明らかにされた(Kalesら,1974)。
睡眠の質を問題にする際には,睡眠研究の歴史的発展をふりかえることが必要である。1920年代にヒトの脳波が発見れ(Berger,1924),1930年代には睡眠深度と脳波の変化との間に一定の関係があり,睡眠深度の量的変化を測定することが可能になった(Loomisら,1935)。さらに特筆すべき研究は睡眠中に急速眼球運動(Rapid EyeMovements=REMs)を伴う特殊な睡眠相すなわらREM睡眠の発見である(AserinskyとKleitman,1953)。このREM睡眠に対し,REMsのない睡眠はNREM睡眠と言い,睡眠は質の異なる2つの睡眠相から構成されていることが明らかになってきた。NREM睡眠は脳波の波形と徐波の出現量により睡眠第1段階から第4段階に分類され,ヒトでは徐波の出現量の多い睡眠第3〜第4段階を徐波睡眠としている。これら2つの睡眠すなわちREM睡眠とNREM睡眠の神経機序をめぐり研究が進展したが,薬物を用いた睡眠の神経化学的機序の研究のうち特筆すべきものとしてrcserpinleをネコに投与するとserotoninもcatecholamineも減少し睡眠障害が,起こり,REM睡眠もNREM睡眠も減少するが,そのネコにscrotoninの前駆物質である5-HTPを投与するとNREM睡眠が出現しcatecholamineの前駆物質であるL-DOPAを投与するとREM睡眠が出現するようになる(MatsumotoとJouvet,1964)。このことからscrotoninがNREM睡眠に,catecholamineがREM睡眠に関係するとするJouvetのMonoamine仮説が出されてきた。このように神経ホルモンや体液性要因をとり入れたwet physiologyによる睡眠機序の解明に薬物投与による研究は重要な役割をはたしてきた。
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