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53年4月から新設の島根医大に移った。2年間は毎週岡山と出雲を車で往復した。丁度その頃マルセイユから岡山大学のフランス語外人講師として来岡しているBemard Francette嬢に,アンリィ・エイの文章でわからない所を毎週1時間ずつ教わった。周知のようにエイは博覧強記の上に,その文章は関係代名詞,分詞でつないだ延々と息の長いものである。いつか私は,エイの文章はフランス人にとって名文か悪文かときいたことがある。すると比較文学を専攻している彼女は,重苦しい文体style lourdであると言った。つまり構成がゴタゴタした文章である。しかし文学者でなく,科学者が書いたのだからこのようなものでしょうとも言った。はじめは難しい仏文に慣れるのが目的で始めたが,読み進むうちに段々と面白くなり,遂にはEncyclopédie Médico-Chirurgicaleの精神医学の巻に所載の「精神分裂病」とAnti-psychiatrie(これはエイのAnti-antipsychiatrieである)を訳してしまい,近く金剛出版から出ることになっている。紙面をかりて宣伝させていただく。
フランスでは最近,古典を見直そうという気運が高まったのか,52年にはDejerineの「神経疾患症候学」が,55年には「中枢神経解剖学」が復刻出版された。精神医学については,Hachette社から19世紀の古典がマイクロ・フィッシュ版で復刻された。私はベルギーのvan Bogaert教授のもとへ留学していた時に,図書室の貴重本のコレクションの中にCharcotの火曜講義のフォトコピーをみつけたが,いつかは読みたいものと思っていた。さいわい今度出版されたシリーズの中に入っているので,早速とり寄せて読んだ。その報告は島根医科大学紀要に投稿予定なので,ここには省略する。
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