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(1)限られた資源,トレーニングされた研究者及び研究設備の不足,研究基金の不足にも拘らず,東南アジア諸国は精神衛生学的研究の分野で急速な発展を遂げてきた。これらの進歩の全てが,20〜30年という短期間に成しとげられたことを想起すれば,それは特に印象的である。しかし,この発展は諸国間では一様でない。インドなどこの地域の幾つかの国が現在,6つの専門的研究雑誌を発行し,精神衛生の種々の分野に関連した200以上の研究論文を毎年掲載している。しかし精神衛生に関する研究出版物を未だ殆ど持たない他の東南アジア諸国もある。
(2)精神医学的疫学,超文化的精神医学及び精神衛生サービスの普及という領域において,注目に値する研究成果が得られた。しかし,生物医科学の分野での研究努力はひどく欠けている。東洋的宗教及び哲学に基づいた精神療法の新技法の分野では,幾つかの重要な個別的な研究努力が成されたが,その研究は精神衛生サービスに大きな影響はもたらさなかった。同様に健康と疾病に関連した心理社会的因子についての広大な研究分野も部分的にしか着手されていない。
(3)東南アジアにおける精神衛生学的研究の発達は,この地域の一般的保健衛生の発達の中でのみ可能である。もし,この地域の国々が精神衛生サービスの重要性を認めず,また保健事業計画において,それが当然重要であることを認識しないならば,いかなる意味においても,その研究は発達しなかっただろう。研究者は立ちかわって,発展途上国の拡大する要求に自己の研究を連結させねばならないのであって,決して研究のための研究,個人の経歴のために論文発表を行なうという研究におごり耽ってはいけない。
(4)発展途上国においては,後のために「応用しうる」研究の方を「基礎的」研究より優先しなければならない。しかし両者の区別は,専断的なものであり,そのような断定は主に研究者自身に託されることになる。直接的に有用な研究にいそしむ一方,発展途上国は,将来,より適切な研究が可能な研究所,センターを発達させることにより,研究を可能にさせる基盤を上昇させねばならない。また将来の仕事として研究を行ないたいと願う若い研究者には適切な刺激が与えられるべきである。
(5)東南アジア諸国は,いつまでも欧米諸国に,その研究トレーニングと研究設備を頼ってはならない。発展途上国は,これに関して自給自足できるように努力しなければならない。欧米に常に目を向けるのではなく,東南アジア諸国は共通の類似した問題を多く抱えているのだから,経験を分かちあい,かつ互いに学びあわねばならない。衛生研究の面で,この諸国間の科学的コミュニケーションが貧弱であることを考えれば,それは悲しむべきことである。
(6)WHOは,この地域における精神衛生学的研究の進歩に重大な役割を果たしてきた。それは共同研究を組織し,これら諸国における研究者の数を増やすための教育施設を供与することによってなされた。このような努力は更に維持,強化されなければならない。
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