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私にとって本日,機能性精神病に関するWHO研究協力センター開所記念式及び明日の講演会に対し挨拶を申し上げることは非常な喜びである。長崎大学精神神経科学教室は顕著な業績を残しており,又センター長である高橋良教授の有能な指導のもとに,将来研究協力センターとして機能性精神病の分野で貴重な貢献をなし得る筈である。WHOにとって精神衛生は大きな関心事であり,過去数年間その活動は西太平洋地域において活発化している。そしてこの地域の多くの地方に於いて精神衛生の今日の発達が,人口統計学的ならびに社会的変化を背景にして生じている。死亡率が低下したために老人人口の割合が多くの国々で増加している。そのため老年に関する疾病の問題や依存性というものが重大な問題となりつつある。景気後退のために失業者が増加し,これが特に打撃を受け易い非熟練労働者,移民そして学校中退者などに大きな社会問題をひきおこしている。急激な工業化と都市化も郊外から都市への人口移動と伝統的な家族制度の崩壊をきたし,これが一層の社会問題を起こしている。住宅事情は多くの大都市において悪化し,社会病理学の種々の指数,例えば犯罪や少年非行が一層顕著になってきている。
医療及び社会奉仕の変化もまた精神衛生にとって大いに重要である。インフレの結果として診療費が上がり,国によってはこれを維持出来ないという事態にまで達している。その結果は医学的社会的プログラムの縮小などにすでにあらわれているし,また熟練したマンパワーの不足にもあらわれている。同時に一層の専門化と進んだ技術への需要から巨大な新病院組織が設立されたが,サービスすべき住民の中心からしばしば離れた位置に立地されている。このような背景を考慮すると,精神衛生サービスの質,内容は世界中において変りつつあり,それらは地域の変化に沿うよう柔軟性を維持してゆかねばならないということは意外な事ではないのである。過去数年間に渡りWHO世界大会でWHOの全体的プログラム政策と戦略の方向転換となる一連の決議が採択されてきた。これらの決議は,国の自立性を推進しかつサービスを受ける住民の衛生状態の改善に直接かつ有意義に貢献するそれぞれの国の衛生目標に向かって社会的に関連する技術的な協力をすることの重要な役割を強調しているのである。指導原則として衛生プログラムの社会的関連性を認めたこの期間を通じて,精神衛生は多くの国々の大きな関心事になってきて,一連の決議を通じてこれらの国は,その緊急な精神衛生問題に答える新しいプログラムや活動を開発するようWHOに要求している。これらは例えば,心理社会的要因と健康の領域,薬物依存,精神遅滞,アルコール問題,精神衛生の推進と麻薬会議を含んでいる。精神衛生に関する地域のプログラムは公衆衛生的アプローチと全般的衛生と社会経済的発展の中への精神衛生の統合への強調を特徴としている。精神衛生の他の新しい面は社会活動の領域,特に都市化や家族構造の変化を含む急速な社会変化の有害な結果の防止と新しい教育機会の推進に精神衛生の知識を応用することであろう。
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