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Ⅰ.序にかえて
この展望は主に1960年以後,哲学と精神医学の関係を直接の主題にした研究をふくめ,2つの学問領域の接点で展開された主要な議論を叙述しながら,哲学と精神医学の今日的関係を概観しようとする。その際,精神医学のなかでも現象学的一人間学的立場が自覚的に2つの学問領域の接点に身をおいていることを考慮するなら,この方面の研究成果や方法論をめぐる議論が論述の中心にすえられるのは当然の成り行きといえる。
それに先立ち,本展望に関係のある範囲で現代精神医学と哲学それぞれの動向を大づかみにみておきたい。精神医学,とりわけ精神病理学は,反精神医学の登場に象徴される各種の社会文化的要因により,自己の存立基盤を根底から脅かされている。こうした状況をJanzarikは「基盤危機」84),Fedidaは「自己同一性の問題化」58)とそれぞれ表現し,またBlankenburgはKuhnの意味での「パラダイム危機」32)と認識する。そうした状況認識と,1970年代以後,方法論をはじめとして精神医学の原理的問題を扱った研究が数多く発表されたことは無関係ではなかろう。たとえば,独語圏ではBlankenburg32),Janzarik84),Kisker103),Glatzel66〜68),Heimann76),Zeh199),v. Baeyer8)らの研究,仏語圏ではMarchais123〜126)の一連の研究,本邦では臺188),安永197)らの研究があげられる。このような方法論的研究の増加は今日の精神医学の注目すべき動向のひとつとみなされ,精神医学はあらたな「自己理解」を導く哲学的反省を求められている。その意味で精神医学は第二の「精神病理学総論」の時代を迎えているといっても過言ではない。v. Baeyer8)やTellenbach183)がその再生を確信する現象学的人間学の退潮の理由の一端には上記の事情が関係していると思われる。しかしそうしたなかにありながら,後にみるように,現象学的精神医学があらたな方法論的自覚のもとに着実な成果をおさめているのも事実である。
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