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I.はじめに
中枢神経系に作用する薬物が脳波に明らかな変化を生じることは,1937年Bergerによって指摘され,中枢刺激物質と抑制物質とを用いた実験で行動の変化と脳波の変化との間に相関があることも示唆されている。当時,大脳の電気活動を導出して記録する方法を研究していた人たちは,常態におけるヒトの脳機能を反映するmediaとして期待していたものであり,精神と身体をつなぐmissing ringを発見しようとさえ意図していたといっても過言であるまい。しかし,epilepsyの診断における脳波の有用性があまりにも衝撃的であったために,またschizophreniaなどで得られた脳波の知見がepilepsyの場合に比べて地味なものであったために,その臨床的普及がめざましかった半面,その臨床的応用はしばらくの間かなりせまく限られた範囲に止まってしまった。
脳波の基礎律動に関する研究はもちろん絶えることなく続けられて来たし,その深さは突発波動に関する研究の比ではなかった。臨床医学における脳波の応用が,睡眠の性状や深度の客観的指標とか,一次的ないし二次的脳機能障害の性質や程度の客観的評価に次第にひろがってゆくにつれ,脳波の有用性はあらためて見直されて来たのである。換言すれば,特異的異常脳波に向けられていた関心が,非特異的異常脳波に向かいはじめたといえよう。
今日では薬物療法が精神療法と並んで精神科治療の主流を占めるに至っている。しかし,向精神薬の大部分はいわば偶然に発見されたものであり,その作用機序についてもまだ仮説の域を出ない。効果の評価も十分客観的に行なわれているといえない。現在入手が容易であり,もたらす情報が豊富であるという点では脳波をおいてほかに見当たらない。向精神薬による脳波変化はこのような観点からさまざまな方法によって検討されて来た。著者は本論文で比較的最近の研究に絞って展望を試みる。
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