巻頭言
これからの高齢者医療
山田 通夫
1
1山口大学医学部神経精神医学教室
pp.536-537
発行日 1981年6月15日
Published Date 1981/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203263
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世界的規模の悪性インフレーションの進行は止まるところを知らぬ。当然のことながら,そのあおりをうけ,研究や医療は財政に,もっぱら支配され,まさに,危機的状況にある。財政再建の名のもとに,強行されようとしている都立医学系研究所法人化の動きには,絶望という以外に適当な言葉が浮んでこない。「研究」と「医療」という車の両輪的作用が否定されんとしているといえよう。
「ない袖は振れぬ」と居直る前に,打つべき施策は,ほかにないものであろうか。悪評高い現行の医療制度のうちでも,とくに高齢者の医療については,長期展望に立った確固としたものとして,対処しなければならない。この点について,われわれ医師や研究者は十分に認識しているのであろうか。国家予算にしろ,自治体の財政にしろ,その帳尻をあわせることのみに,きゅうきゅうとしている。まさか,このことが,国や自治体の最後の目的ではあるまい。明治政府成立に奔走した「元勲」たちは,結果の是非は別として,国家存立の理念を財政のみには置かなかった。21世紀を間近かにひかえ,高齢者医療について,われわれは自戒をこめて,思いをめぐらせねばならないだろう。
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