古典紹介
A. Pick:Störung der Orientierung am eigenen Körper—Beitrag zur Lehre vom Bewußtsein des eigenen Körpers〔Psychol. Forsch., 46 ; 303-318, 1922〕
波多野 和夫
1
,
浜中 淑彦
2
Kazuo Hadano
1
,
Toshihiko Hamanaka
2
1大阪赤十字病院精神神経科
2京都大学医学部精神神経科
1Dept. of Neuropsychiatry, Osaka Red Cross Hospital
2Dept. of Neuropsychiatry, Kyoto.Univ. Faculty of Medicine
pp.311-323
発行日 1979年3月15日
Published Date 1979/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202912
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身体意識Körperbewuβtseinの喪失,つまり「身体精神」“Somatopsyche”の欠陥に関する学説のうちで,思弁的理論構成的な論述はあり余るほどにあるのとは逆に,観察によって確かめられた事実は極めて乏しい。今このような事実から,精神衰弱やヒステリーの患者が示した症状,したがってさしあたり純粋に観察によって得られた素材とは見なし難いものを取り除けば,あとに残るものはほとんど無いので,これに関連のある報告はすべてそれだけでもすでに報告たるにふさわしい資格を持つものといえよう。
1920年の夏休みに,元店員Franz Z. 67歳が入院した。次のような病歴がある。患者は8年前から腸カタル,鼻出血など病みがちである。1年半前から脚の脱力のために床についていた。特に右脚が弱い。入院の14日ほど前のある午後,寒気がすると訴え「体がふるえた」とのことで,顔が蒼白になり,あとでは紫色になった。意識消失はなかった(?)が,尿失禁があり,それ以後はもはや右手を動かすことができなくなった。顔面もゆがんだが,これは次の日にはもうよくなった。最近2年間にだんだんひどくなってきた高度の記憶障害がある。感染疾患はない。1人の死産児がいる。
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