- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
皆さん!精神医学の進展に伴い,精神病の詐病(Simulation von Geisteskrankheit)の問題もここ数年間に変化を遂げました。そして精神病に関する知識が進歩するにつれて,精神障害の詐病は非常に稀であるという見解がますます普及したことは,見逃すことができません。しかしこのような趨勢にもかかわらず,精神障害の詐病の頻度が高いことを強調し,それが今後増加することを予想する学者が,少数ではあるが,ごく最近まで繰り返し現われています。このような学者の出現はとにかく今日では注目をひく現象であり,その解明が望まれています。さて,これは一部は次のような事情に基づくと思われるが,こういう考えは今までにも出されています。すなわち,これらの学者は詐病の概念を比較的広くとり,精神的に低格な被告人(Angeschuldigte)が釈放されたいために非常にしばしば行なう,歪曲,誇張,虚言,欺瞞などのすべてを精神病の偽装と見なすことであります。他の学者であれば,このような行動を被告人の精神病質低格の表出と症状にすぎないと考えます。さらに,それはおそらく次のような事情にもよると思われます。すなわち,観察者のかなり多くは,少なくとも,豊富な司法上(forensisch)の材料を取り扱っている場合には,現実に,比較的しばしば真の詐病者を見ていることであります(ただし,私の考えでは,正常者が行なう精神障害の詐病を科学的に完全に異論なく証明することは,多くの文献から想像されるよりはずっと困難なことであります)。
しかし私の考えでは,以上のことは説明のために十分ではありません。とりわけここでは次のことが同時に問題になると思われます。すなわち,多数の司法上の材料では,ある病像,しかも次のような病像が,とりわけしばしば観察されるということであります。その病像というのは,非常に目立つ(auffällig)もので,しばしば,精神医学で通常みられるすべてのものから非常に異なり,今日でも詐病だと言われがちなものであります。私がここで言っているのは,変質者(Degenerative)に拘禁時に出現する,あの一過性の病態であります。ここで問題なのは,司法上重要で,大都市の犯罪者にとくに豊富に出現する事例であり,その個人は,平素の状態像では狭義の精神病者に該当しなく,平素の状態像の目立った特徴によってたとえば精神薄弱者,類てんかん者,ヒステリー者,神経衰弱者,あるいは単に心的低格者などと見なされるが,拘禁時には目立って変化した外的行動を示します。その行動というのは,それを観察する者が,たとえその病的な基本状態,つまり精神病質低格を是認していても,異常な振舞いそのものは,随意的に誇張されたもの,あるいはまさに意図的に偽装されたものであると,説明しないではいられないようなものであります。
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.