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研究と報告
精神療法の一技法—向う岸での接触 その1(技法Ⅰ)
Psychotherapy on "Patient's Shore", Part 1
小林 継夫
1
Tsuguo Kobayashi
1
1日本大学医学部精神神経科教室
1Dept. of Neuropsychiatry, Nihon University School of Medicine
pp.501-509
発行日 1978年5月15日
Published Date 1978/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202761
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I.はじめに
心臓神経症の患者は自分の心臓が悪いと疑っているが,治療者はそう考えてはいない。また,被害妄想の患者は迫害を信じているが,治療者はそれを少なくとも内心でははっきり否認している。当り前のことだが,このように患者と治療者との基本的判断には明確な断絶がある。それは正常と異常とを分けるもので,いわば「こちら岸」と「向う岸」といったほどの相違がある。そして精神療法の一つの重要な課題は,この断絶を乗り越え,如何にして患者との密接なcommunicationを得るかであろう。精神療法の対象が,大神経症から精神病の領域にまで拡大されている今日,この問題はますます重要性を増しつつあるように思われる。
ここで述べる"向う岸での接触"とは,治療者が患者の向う岸に完全に同一化した試みである。つまり,患者の異常な考え方や感じ方の世界に,治療者が患者といっしょに没入してしまうことである。そうしなければ如何なる接触をも持ち得ない患者も少なくはないし,また,そうすることによってはじめて生き生きしたcommunicationを得られることも確かであろう。こうした方法としてはすでにRosen2)の直接分析が有名であるが,筆者はRosenとは違った角度から"向う岸での接触"を試みた。そして,そこに少なくとも2つの特異的な治療的契機が兄出されるように思えた。それぞれに関する手法を,技法Ⅰ,技法Ⅱとするが,今回はまず技法Ⅰに関して今までの経験をまとめてみたいと思う。
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