資料
難治脳疾患医療のおくれについて—国立武蔵療養所の経験から
松本 秀夫
1
,
川島 恵子
1
,
菅谷 三子
1
,
羽切 粂子
1
,
秋元 波留夫
1
Hideo Matsumoto
1
,
Keiko Kawashima
1
,
Mitsuko Sugaya
1
,
Kumeko Hagiri
1
,
Haruo Akimoto
1
1国立武蔵療養所
1National Musashi Sanatorium
pp.1007-1014
発行日 1976年9月15日
Published Date 1976/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202533
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I.はじめに
近年,社会事情の変化とともに,老人性,脳血管性,頭部外傷後の精神障害や,本態・治療法の不明なまま看過されてきた種々の大脳変性疾患など,いわゆる脳器質性病変に基づく精神障害が増加し注目されている1,2)。それにもかかわらず,わが国の精神病院においては,脳器質性精神障害者は長期入院の慢性分裂病患者の大群のなかに埋没し,無視され易い状況がつづいてきた。彼らは器質性脳障害のために日常生活の自立不能のものが多く,看護の負担,厄介者として各病棟に分散されるのが普通である。疾患の本態や治療方針を異にする患者を同一病棟内に,しかも多数者の中の少数者として収容することの弊害はいうまでもない。同じことはてんかんやアルコール中毒についても痛感されることであるが,脳器質性疾患では急性期治療からリハビリテーションまでを含む複雑,困難な医療活動を必要とし,多数の内因性精神病治療の片手間に行なえることではない。現在,精神分裂病治療の重点が社会復帰活動や外来活動に移行し,一方,精神障害の多様化に応じて,個々の患者に即したきめ細かな専門的治療が要求されている。脳器質性精神障害に対しても,こうした社会的要請は増大する一方であろう。
国立武蔵療養所においては,このような考えに基づいて一病棟を脳器質性疾患を対象とした専門病棟として発足せしめ,既に約5年半を経過した。国立精神療養所における最初の試みであり,なお試行錯誤の域をでないが,この間の経験を述べ,我々の反省と今後の参考に資したいと思う。
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