Japanese
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研究と報告
前頭葉損傷の臨床的考察—I.白質変性症の経験から
Clinical Observation of Prefrontal Lesions : (1) Based upon the Symptoms of Adult Cases of Leucodystrophy
土屋 佑一
1
,
横井 晋
1
Yuichi Tsuchiya
1
,
Susumu Yokoi
1
1群馬大学医学部神経精神科学教室
1Dept. of Neuro-psychiatry, Gumma Univ. Med. School
pp.817-823
発行日 1972年9月15日
Published Date 1972/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201932
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I.緒言
われわれは過去十数年の間に8例の成人の各種白質変性症をみてきた。それらはすべて神経病理学的,神経化学的に検索し報告したものであった。しかしこの中の多くの例が奇妙な臨床症状を示し,しばしば分裂病と誤診され,外国にも同様な例が報告されている。剖検の結果は前頭葉に最も古い,著しい病変をもつ脱髄疾患であることが確認されたが,ここでわれわれが興味をもったのは前頭葉侵襲による精神症状である。前頭葉は従来沈黙の領域とされてきたが,一方前世紀末以来,動物の前頭葉破壊実験によって少しずつ解明されてきている。またヒトの腫瘍,外傷をはじめとする前頭葉損傷や,さらにPick病や前頭葉ロボトミーによる精神症状も詳細に報告されている。しかし残念ながら動物実験の結果を直ちにヒトに還元しがたく,ヒトの前頭葉は従来最も人間的な,最高の精神の座として動物のそれとはまったく次元の異なったものだという見方がなされてきているのであって,日常の臨床においても前頭葉損傷による症状の発見はなかなか困難である。さらに興味をひくことは上述のように前頭葉損傷の初期の症状が分裂病の人格変化と誤診されることである。われわれは経験した白質変性症の中から比較的明らかな症状を呈したものを報告し,前頭葉の臨床を始めたいと思う。
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