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I.はじめに
アルコールおよび薬物中毒者における自殺企図は,欧米では非常に多いものといわれ,英国では自殺既遂が一般人口の約80倍あったとN. Kessel and G. Grossman1)が報告している。しかし,それに関する報告の乏しいことも述べている。一方,わが国でも少数の臨床統計で言及しているにすぎない。中毒者における自殺の研究報告の少ない理由として,著者は①中毒者が自殺企図した時点での本人の精神および身体的状況と,依存性薬物(アルコールを含む)の影響,関連性を把握することが困難であること(未遂の場合も健忘を残していることがしはしばであることなどによる),②中毒者の生活史,病歴の把握,予後の追跡調査が各種の理由でしばしば難しいことなどにあると考える。著者の経験では,中毒者が自殺を企図した時点での状況一般,とくに本人の精神および身体的状況はさまざまであり,まさにそのことが中毒者における自殺の特色であると考えられるが,本文であらためてふれる。著者は,自殺一般の問題がはらむ複雑さは,そのまま人間存在の複雑さであると考え,これをいささかでも解明できれば,人間存在の理解とこの悲劇の防止に役立つと思い,著者自身の臨床の主たる対象であるアルコール中毒者,薬物中毒者について調査した。中毒と限らず,すべての自殺企図には生物学的,心理学的,社会学的諸要因がさまざまにからみ合っていることが推測できるが,中毒者の自殺企図には,著者の臨床経験から,とくに酩酊および意識障害が特異な関連性をもつのではないかと考え,この研究では,自殺企図と意識障害の関連を重視して調査した。また自殺企図と中毒の予後との関連についても調査を試みた。
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