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I.はしがき
アルコール中毒者の転帰に関する調査にさいしては,いくつかの問題点があげられるが,まず第1に,対象となるアルコール中毒者の定義の問題がある.すなわち,ドイツでいうAlkoholismusとは,Chronischer Alkoholismusを指し,Suchtを基盤として幻覚・せん妄・妄想・作話などを生じたいわゆるAlkoholpsychosenとは区別して扱われている.しかし,AlkoholismusをAlkoholsuchtと同義に解している傾向も少なくない.アメリカでいうalcoholismは,ドイツのAlkoholismusとは異なり,acute alcoholic intoxicationからchronic alcoholismまでの非常に広範囲のものを含み,さらに中毒による精神症状を伴うalcoholic psychosisまでもこれに含まれているようである.わが国におけるアルコール中毒の概念もかなり混乱しており,アルコールに起因する精神障害・性格偏倚などを総称する傾向がある.彼らのなかには,断酒を決意して入院する患者もあれば,断酒の意志もないままに無理に入院させられる者もいる.また,機会的飲酒が酒乱の原因となった例もあれば,他方では妄想や幻覚を伴ういわゆるアルコール精神病者もいる.彼らに共通して認められるものは,アルコールに対する依存性とそれに起因する自己の悩み,あるいは彼をとり巻く他者の悩みである.第2に問題になることは,転帰の判定基準である.厳密にいえば,彼らが治療を受けて禁酒にふみ切っただけでは決して転帰良好とはいえない.なぜなら,禁酒によって内的緊張が顕著になり,神経症的態度を示す者も多いし,非社会的・反社会的行動をとる者もいる.そしてまた,禁酒者よりも,適度に飲酒できる者をより良好な転帰を示すものと考えるべきだとする説もある.その他,治療者は転帰判定者たりえないという問題,多岐にわたる治療内容など,多くの問題点が考えられよう.
現時点では,このように多くの問題をはらむにもかかわらず,あえてわれわれがこの課題をとり上げた理由は,精神障害者のなかでもいわゆるアルコール中毒者は再発が多いこと,家族内葛藤が著明なこと,治療も画一的で,治療者も家族も問題の重要性を認識していない場合が多いなどという臨床的体験にもとづいた印象を再検討し,治療上の反省をえたいと考えたからにほかならない.
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