巻頭言
一精神病院の窓から
野口 晋二
1
1桜ケ丘保養院
pp.911-913
発行日 1970年11月15日
Published Date 1970/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201672
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私はやや低次元でのしゃべり方がしてみたい。
大学神経科での箱庭の盆栽いじりのような臨床経験を終えて,桜ケ丘保養院に移ったのはいまから約30年前の昭和16年である。植松七九郎先生が院長で,当時では珍しい開放管理を,開院いくばくもないこの病院に実現しつつあった。試みに,どの位,患者さんが自由にできるか,逃げるか,窓の格子の多くをはずしてみたところ,それ程のこともなく,ある患者さんは屋根に登ってしまい,職員が説得にかかったり,いく人かの患者さんが逃げて,スタコラ駅に向かって歩いて行くのを,自転車で追いかけたりする程度のことであった。それでも,あまり不手際な逃がせ方をすると,一応,職員は始末書を書かせられた。そのころは,患者さんを逃がすと,罰として,給料を減らされたりするのが多くの病院のしきたりであった時代である。この経験から,参観者などが「この病院には狂暴性の人はいますか」とよく問うのに対してある種の反揆を感じ,ひいては,患者を大切にし,その身になって考える場合には「狂暴な患者」などはいないこと,患者さんこそは相手の心の鏡である,などということが体得された。反面,患者に対し,感情的に手をかけた職員は,理由の如何をとわず辞めさせるきびしさもあった。
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