Japanese
English
研究と報告
書字の際に顕著な反復傾向を示した側頭葉腫瘍の1例
Ein Fall vom Temporallappentumor mit einer starken Iterativneigung beim Schreiben
鳥居 方策
1
,
大岸 敬明
1
Hosaku Torii
1
,
Hiroaki Ogishi
1
1金沢大学医学部神経精神医学教室
1Dept. of Neuropsychiat., Kanazawa Univ. School of Med.
pp.537-542
発行日 1969年7月15日
Published Date 1969/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201494
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書字における顕著な反復症状を示した脳腫瘍の1剖検例を報告した。
患者は右利きの男の会社員で,44歳の時,てんかん発作(精神発作および自動発作)をもつて発病し,49歳になつて比較的急激に頭痛,嘔吐,左片麻痺,左側同名半盲,意識障害などの症状を呈して入院した。検査の結果,右の側頭葉に腫瘍のあることが判り手術を受けたが,剔出は不能で全経過約5年で死亡した。入院後,意識障害の軽度な時期に認められたおもな精神症状ないしは脳病理学的所見は,周囲に対する無関心,多幸的・楽天的気分,先見当,記銘および記憶の障害,高度の失算,健忘失語,仮性同時失認,保続および滞続症状,ならびに書字などにおける著明な反復傾向であつた。反復傾向は話し言葉や普通の動作にはほとんど認められず,書字などにさいしてのみ顕著に現われたことが特徴的である。剖検の結果,右の側頭葉中部および後部に巨大な腫瘍が認められ,右の側頭葉の大部分,頭頂葉と後頭葉の一部,右の大脳基底核の大部分とその周囲の白質,視床の一部などが壊死または軟化に陥つていた。
本症例を中心に種々の反復症状について臨床病理学的考察をおこない,本症例の書字障害と失書との関係について若干言及した。
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