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大脳半球優位性の問題は大脳病理学の領域における主要なテーマの一つである。周知のごとく,半球優位なる概念はJacksonの“leading hemisphere”に源を発し,本来は言語機能のごとき象徴機能が右利きの者では左半球に局在するという考えに由来している。しかし,さらに,言語以外の認知や行動などに関しても大脳は機能的に相称ではなく,それぞれの機能は左右いずれかの半球が優位性をもつものとされている。一方,機能的不相称の左右半球の相互関係に関し,あるいは左右の半球を連結している脳梁の大脳病理学的意義に関しては,最近まで不明の点が多かつた。わが国の氏家の業績(1952)は失語の際の傷害側と健側との複雑な機能的相互関係の存在を示唆したが,しかし現在もなおこの間の事情の詳細については十分解明されているとはいえない。
さて,本書は大脳半球間の関連と半球優位性とをテーマとして,1961年Johns Hopkins大学で開催された学会の発表を集録したものであつて,上述の点から興味をそそられる内容を含んでいる。通常半球優位性という語を耳にするとき,われわれにはBrain,Hécaen,Penfieldなどの名が想起されるが,この書物の執筆者は臨床家よりも基礎医学や心理学の畑の人が多いのも特色である。本書を忠実に紹介することは,本誌の読者に興味がないことかもしれないが,一方,臨床面に重点をおいて紹介するとすれば本書の特色をそこなうことになる。むしろ本書の大部分を占めている生理学的ないし心理学的なアプローチこそ今後の脳病理学の一つの大きな方向(神経心理学neuropsychology)を示しているのではないかと思われる。従来のこの種の業績をみても,かなり実りの多いもので,筆者の個人的な感想では臨床的症候学とならんで重視すべきもののように思う。ゆえに比較的平均して紹介を試みることにしたが紙数の関係上満足な紹介ができないであろうことをお許しねがいたい。本書は11章から成り,これらは前記の1961年の学会におけるsessionにしたがつて4部門に大別され,各部門ごとに討論が挿入された形式をとつている。ここでもその内容にしたがつてsessionごとにとりまとめて記すことにする。
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