Japanese
English
展望
臨床遺伝学からみた神経症理論—ふたごの研究を中心にして
A Discussion on Neurosis Theory from the Standpoint of Clinical Genetics, with Special Reference to Studies in Twins.
井上 英二
1
Eiji Inouye
1
1東京大学医学部脳研究所
1Division of Human Genetics and Criminology, Institute of Brain Research, University of Tokyo School of Medicine
pp.859-870
発行日 1963年11月15日
Published Date 1963/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200627
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.まえがき
現在の日本の精神医学は,神経症についてのかつての大問題をすつかり解決してしまつたようにみえる。病因論には心因論と対立するほどの有力な学説はなく,治療もこれに伴つて精神療法が主流となり,精神科医はいろいろの精神療法の技術をつかつて,十分満足できるだけの成績をあげているようである。学界においても,いわゆる神経症的防衛機構についての議論はあつても,それ以上の概念の混乱や治療についての試行錯誤が,活発な議論の対象になることはあまりないようである。
もし,神経症と診断されるすべての症例の病因が心因だけであり,その心因は個人をとりまくさまざまの社会環境の産物であるならば,一方では社会学的の方法でその社会環境を分析し,もう一方では心理学的方法で心因から症状にいたる過程を追及すれば,神経症の研究としては必要でかつ十分であるということになりそうである。ここでは,神経症の素質という概念をもち出す必要はなく,したがつて神経症あるいはその素質の遺伝学的研究も成り立ちそうもない。事実,現在の神経症理論に決定的な影響を与えた遺伝学的研究はみられない。
Copyright © 1963, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.