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Ⅰ.はじめに
向精神薬の開発と研究は精神科領域の多くの患者に福音をもたらしてきた。しかしそれらの効果の影にはつねに好ましくない随伴症状を伴うのをつねとしその新薬の使用にはその適応,特異性に注意がはらわれねばならず,"望まれる効果"だけをもつ新薬物の開発の必要性は数多くの向精神薬の出現をみたこんにちにおいてもなお強く望まれる。
1961年3月Geigy社はSchmider, Blattner1)の合成したIminostilbene誘導体G33040をInsidonと命名し7月までにその基礎的作用を検討した。その後数名の研究者により臨床的にも使用に耐えうる興味ある薬物であることが報告された2)3)4)5)6)。それは抗うつ作用のみならず自律神経系に対して鎮静的にはたらききわめて副作用が少ないとされた。とくに精神面の障害と自律神経系の障害にもとづく身体症状との間の調整をもたらす点で新向精神薬としての特徴をもつものである。その化学構造は下記のごとくであり水溶性の白色結晶である。
上記のごとく,thymoleptic actionの強いImipramineの側鎖がneuroleptic actionの強いperphenazineの側鎖におきかえられたもので構造上thymoleptic-neurolepticな作用が期待され,臨床的にはchlorpromazineとImipramineの中間に位すると考えられた。
基礎実験によると,amphetamineによる興奮はラッテで著明に抑制され中枢神経系への鎮静効果があり,マウスでの回転試験は50mg/kgで鎮静効果を,apomorphine 0.1mg/kgで前処置した犬にInsidon 0.5〜10mg/kgを投与すれば制吐作用を認め,またImipramineと同様reserpineのpotentiating effectを阻害した。Insidonの末梢性効果はおもにserotoninやhistamineに対する拮抗作用であり,また猫における実験で治療量相当量では血圧低下を起こさぬことも確認された。動物実験での毒性はきわめて低く静注でマウス,ラッテおよび家兎に対するLD50はそれぞれ45,32,11mg/kgで経口投与の場合はマウスで443mg/kgラッテでは1110mg/kgにも達する。またラッテで50〜400mg/kg 4週間投与でその内臓諸器官にはなんらの変性もみられていない。
臨床的には精神と自律神経の調和をはかる感情調整作用と神経遮断作用が強調され,従来の薬物でみられなかつた二相性作用すなわち不安,緊張不穏から患者を解き放ち,ついで気分を昂揚させつつ自律神経機能の安定調和をはかるとされた。私たちはこの点に興味をもち藤沢薬品から提供を受けたInsidonについて主として臨床的見地からの効果をみるため本剤を使用したのでその経験を述べる。
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