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Ⅰ.
「分裂病者におけるコンタクト」の問題は昨今精神病理学のもつとも今日的な主題の1つとなつてきている。わが国でもすでに宮本氏1),荻野氏2)らの,また最近ではすぐれた小川氏3)の論著を読むことができるし,他方当然のことながら精神分析や病院精神医学の分野からの数多くの研究もまた,この主題にふれてのべられている。このようにコンタクトの問題は一見いかにも今日的な課題のごとくみえるのであるが,実はJanet, Bleuler以来すでに久しく精神分裂病研究の中心的な問題にあつたことを忘れるわけにはゆかない。いわゆるアカデミックな精神医学の諸概念,つまりBleulerの内閉性,同調性,Kretschmerの分裂気質,Minkowskiの生ける接触,さらにはJanetの現実機能,Blondelの社会意識等々,いずれをとつても,そこには主題的にであれ非主題的にであれ,分裂病者におけるコンタクトの問題にふれていない概念はないといつてもよい。われわれが精神病医としてうける最初の訓練はふつう感情診断の習得,つまりこの人には疎通性があるかないかの判断であるということや,その場合にこんにちなお慣用している「感情的疎通」という言葉をわれわれは1908年来Bleulerに負うているということは,コンタクトの問題の歴史性と今日性を端的に物語つているといえる。
しかしながら,このように古くからあるコンタクトの問題がこんにち新たな装いのもとに登場してくる舞台は,いうまでもなく従来のそれとは趣を異にしている。つまりコンタクトという言葉に新しい息吹きを吹きこんだのは,一方においてアメリカのコミュニケーション論,対人関係論であり,他方において欧州における精神医学的現存在分析の研究であつた。それらによつてこんにち提出される意味での「コンタクト」は,大約つぎの2つの点で旧来の意味のそれと区別されるようにみえる。1つには,そうよんでよければ二人称的両数的なコンタクトの問題,つまり「分裂病におけるコンタクト」ではなく「分裂病者とのコンタクト」の問題になつてきているという意味において,2つには治療(とりわけ心理的治療)というプラクシスに密接不可分の課題となつているという意味においてである。二人称的な関係への注目と治療的な構えという,この2つの要素はBoss4)のいうような意味で,精神分析のプラクシス(理論ではなく)に深く内蔵されていたものといえるが,事実こんにちの対人関係論はもとより精神医学における現存在分析もまたそれぞれ発想と方法を異にするとはいえ,精神分析に端緒をもつわけであるから,あえて大胆な表現をすれば,精神病理学のワクの中で伝統的な精神医学と精神分析が出会うことのできる場所は,ほかならぬ「コンタクト」という問題領域であろうとさえいえるかと思うのである。
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