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はじめに
本稿では放射線災害への精神科医の対応に焦点を当てて述べるので,特に福島県の状況について述べることとする。また,本稿は一般県民についての報告であるので,原発従事者・原発事故処理従事者のことには触れない。
放射線災害についての精神科医の取り組みとしてわが国で知られているのは,長崎の原爆被ばくのあとの中根ら8,9),Kimら4)の調査研究報告である。また,原子力災害への対策を記したものとして,吉川らが作成にかかわった「原子力災害時における心のケア対応の手引き」(原子力安全研究協会編)2)がある。原爆ではない原子力の利用の際の放射線災害に関しては東海村におけるJCO臨界事故についての蓑下らの報告3,7)がある。しかし,福島第一原発事故による放射線災害は1986年のチェルノブイリ原発事故に次ぐ規模の災害であり,わが国では未曾有の事態であって,こうした災害への精神科医の取り組みとしては初めての経験であった。
チェルノブイリ原発事故の後20年を機として開催された国際原子力機関IAEAが中心となって開かれたチェルノブイリ・フォーラム5)あるいはLagonovskyらの研究報告6)では,精神的な影響が大きな問題であることが述べられている。2011年の福島第一原発事故の後の経緯をみても,メンタルヘルスへの影響が大きな問題となってきた。原発事故の後の放射線災害への不安がもたらしたメンタルヘルスへの精神科医の取り組みをまとめておくことは,わが国の歴史上経験のない事態であるだけに重要であると考えられる。なお,福島県における震災・原発事故後の精神保健に関する支援は,被災全体に対する支援ではあるが,原発事故に伴う避難者の数が圧倒的に多いので,実質的には放射能汚染への不安についてのものとなっていると考えられることから,本稿では放射線災害への不安に対する精神科医のかかわりを福島県における精神保健に関する支援全体として広くとってまとめておきたい。
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