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せん妄というと,臨床現場で一番問題とされるのは,幻覚や妄想とともに興奮が著明で,大声で叫んだり,点滴ラインを自己抜去したりして,原疾患の治療に大きな支障を来すような活動性の高い「過活動型せん妄」であり,こうしたせん妄をどう予防し,またどうしたら早期に発見して介入できるかがもっぱら論議されている。たしかに,外科手術などの後に出現するせん妄,いわゆる術後せん妄は,こうした過活動型ないし混合型の亜型が目立って出現し,保険適応は取れていないものの抗精神病薬を中心とした治療に比較的よく反応する。しかし,高齢者やがんの進行に伴って終末期に出現してくるようなせん妄は,ほとんど目立たず1日中不活発な状態が続くような「低活動型せん妄」の割合が高く,またこうしたせん妄は治療反応性に乏しく,臨床的には苦慮することが多い。
ところで,2013年5月に米国精神医学会から発表されたDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed(DSM-5)によれば,せん妄の診断基準の骨格はこれまでとほとんど変わっておらず,注意および認識の障害があり,これらの障害が変動すること,加えて認知の障害もみられることが挙げられている。これまでと違うのは,せん妄と診断された場合には,過活動型,低活動型,そして混合型といった亜型についても特定するよう記されていることである。亜型がこれだけはっきりと取り上げられるようになった背景には,低活動型せん妄が実際の臨床で置き去りにされているという事実があるからではないかと考える。これをきっかけに,臨床的には過活動型や混合型せん妄と同様に意味があるものの,これまであまり注目されてこなかった低活動型せん妄にも目が向けられるようになることを願いたい。
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