書評
―堀越 勝,野村俊明 著―精神療法の基本―支持から認知行動療法まで
宮岡 等
1
1北里大学・精神科学
pp.672
発行日 2013年7月15日
Published Date 2013/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102509
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
近ごろ,精神医療がお手軽に思われていることに強い危機感を感じている。わずかな研修を終えたばかりの若い精神科医が,十分な教育を受けることを放棄し,時に単独で開業までしてしまうことも少なくないと聞いている。これは,精神医療は簡単にできるものという誤解を研修のどこかで与えてしまっている我々教育する立場の者の責任が大きいのであろう。精神医療の恐ろしさは,うつ病しか知らない医師にとってあらゆる精神疾患がうつ病と診断されるような事態が起こり得ることである。精神医療には客観的な指標が乏しい。診察で求められることは,患者の主観的な症状を的確に捉え,その症状から診断を考え,鑑別診断のためにさらに症状のチェックをするという,非常に複雑な作業である。その作業なくして,適正な診療が行われることはあり得ない。
そんな精神医療について,どこまでを教育の範囲とすべきなのだろうか。特に精神療法においては最小限クリアすべきこととして何を教育すればよいのであろうか。ここ数年で,日本の精神療法の中心が認知行動療法になった。支持的精神療法はできないが,認知行動療法はできるという笑い話のような事態にも出くわす。ここまで認知行動療法が広まった理由は,厚生労働省が診療報酬の対象にしたことだけではあるまい。マニュアルに基づいて面接を行えば良いという誤解に基づいて,どこか手軽さを求めた結果,今日のような状況になったのではないだろうか。
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.