書評
―石津 宏 責任編集―専門医のための精神科臨床リュミエール27―精神科領域からみた心身症
尾崎 紀夫
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1名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野
pp.859
発行日 2012年8月15日
Published Date 2012/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102254
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心身医学に興味を持ったのは高校生の頃,池見酉次郎先生の「心療内科」(中公新書)を拝読した時に遡る。小説好きから精神分析に興味を持ち始めていた当時,「心療内科」に書かれていた内容,特に症例を中心とした臨床的な話は,大変,魅力的なものであった。両親医師(精神科医ではない)の元で育ったものの,「医学より文学」などと考えていた私に,「臨床医学は興味深い」と思わせる効果を持っていた。その結果,「精神科医か,はたまた心療内科医を目指すべきか」という迷いは生じたが,いずれにせよ,医学部に進むことは間違いのない方向と思えた。
その後,卒後研修医として各科をローテートする2年間を市中の総合病院で過ごした。その間,様々な身体疾患の経過に心理社会的な要素が関与することを目の当たりにしたが,中でも強く関心を持ったのは,腎臓移植であった。1) 免疫抑制のため使われる副腎皮質ステロイドや腎機能障害が脳に与える影響という生物学的次元の問題,2) 本邦で大半を占める生体腎移植に際し,「家族内の誰が腎臓を提供するのか」という問題を巡って生じる家族内葛藤の問題,3) 他者の腎臓が自己の腎臓として身体的にも精神的にも統合される過程が引き起こす自己と他者の問題,などなど。まさに,生物・心理・社会的な問題をはらんでおり,その後の診療,教育,研究に大きなインパクトを与える体験であった。
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