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ついにプレコックス感再登場か。おそらく,戦後最初の世界精神医学パリ学会でオランダの精神科医Hendrik Cornelius Rümkeが報告し,出席した故・荻野恒一が聴いて本邦に伝えた。国内では,1966年にRümkeが「プレコックス感」をKurt Schneiderの一級症状に加えよという論文を掲載したことを受けて,「精神分裂病の診断基準―特にPraecox-gefühlについて」なるシンポジウムが行われ『精神医学』誌9巻2号(1967年2月号)に掲載された。このシンポジウムには単なる診断基準にとどまらない議論が開陳されたにもかかわらず,「いわゆる分裂病臭さ」「患者を前にしての何ともいえないイヤーな感じ」と受け取られ,西丸四方が「安物の金仏」を前にした感じと要約した。そもそもヨーロッパ精神医学間の交流は少なくて,隣国の精神医学も知らないことが多いが,オランダ国外,特にドイツでは全く無視された。私は1984年3月に『岩波講座・精神の科学〈別巻〉』に原文からの30ページの翻訳と解説を掲載した。目下唯一の邦訳であろう。
Rümkeの概念の初出論文としてユトレヒト大学図書館が私に送ってきたものは『オランダ医学雑誌』に掲載された一般医師向けの講演である1)。要約すると,彼は自己の精神医学を「出会いの現象学」と命名し,スキゾフレニア患者との出会いにおいては,出会いとは相互的なものであるから,患者の対人接近本能欠如感がこれに対面する者に同じ欠如感を呼びさまし,この欠如感が意識されたもので,彼は,「私はこれを感じない時には私はどんな症状があっても,スキゾフレニアと診断しない」と断言している。また,他の症状は,正常人といわれる人たちが,一瞬ならば,あるいは孤独な時には経験しているのだと彼はいう。抗精神病薬のない時代であり,また,ナチス占領下で監視の眼を絶えず意識している時代だから人々は鋭敏に監視されているかどうかを意識していたという見方もあるだろうが,Rümkeが,生涯,午後7時間から1時間半は患者からの電話を最優先に受ける時間として実行していた人であることは留意する必要があるだろう(林宗義による)。声のトーンのほうが患者のこの状態をよく反映するかもしれない。
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