巻頭言
臨床研究へのいざない:2題話し
古川 壽亮
1
1京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野(認知行動医学)
pp.1046-1047
発行日 2010年11月15日
Published Date 2010/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101725
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
一人ひとりの患者さんにとって重要なアウトカムに差異が生じるかどうかまでを診断,治療,副作用などについて検討する研究を,臨床研究という。わかりやすい例でいえば,高脂血症患者でコレステロールが下がるかどうかまでを見ただけの研究は本当の臨床研究ではない。高脂血症患者で実際に心筋梗塞その他の心血管イベントが減り,さらに総死亡率まで下がることを検討する研究が臨床研究である。本当の臨床研究であるかどうかを知るには,もしその介入でそのアウトカムだけしか変化がないとしたら,自分はその治療を受けるかと自問すればよい。高脂血症剤でコレステロール値が下がるだけで,そのほかには全く何の変化もないならば,それは明らかに私にとって痛くもかゆくもない(お金と手間暇だけは明らかにかかるうえに,自分は病気であるという心配までおそらく増やしてしまう)から,私はそのような診断・治療を受けないであろう。
心筋梗塞後に不整脈があると死亡率が高くなることは観察研究から明らかであったので,抗不整脈剤を投与して再発そして死亡を防ごうと考えるであろう。では本当にそのような治療をしたら死亡まで減るかを検討する臨床試験が行われたところ,不整脈そのものは減少したが総死亡率はかえって上昇することが明らかになり,急遽この試験は中止され治療指針を書き換えることになった。これを明らかにしたCAST研究2)は歴史的教訓として有名である。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.