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これまでに,悪性症候群の総説や症例報告は,和洋にかかわらず数多くなされている。精神科を標榜する医師であれば,この病態については何がしかの知識を持っているという自負はあると思う。しかし,悪性症候群はその発生率が0.2%を下回るまれな病態である。本書の序文にあるように,「精神科の専門医であっても悪性症候群を経験していない医師も多くいる」だろうし「悪性症候群の患者を実際に診察し,治療に当たらないと悪性症候群とはどのようなものかわからないであろう」。さらに本書でも強調されているように,悪性症候群は多様な臨床像をとる。そのために,初めて悪性症候群を診療する治療者は,診断から治療まで(ふだん使い慣れない薬剤を使う!)大いに悩み,不安を感じることと思うし,かくいう評者もそうした経験をした。
本書は,そうした悩める臨床医に対し良き先達たろうとする態度を明確にしている。著者である西嶋康一先生は,四半世紀にわたり悪性症候群の臨床と研究に携わり,当該分野の第一人者である。その経験した症例数は確定できたものだけでも40例近くになるということであり,その豊富な経験を活かして,「悪性症候群を経験していない研修医や精神科医を想定して,著者が経験したさまざまな悪性症候群の症例を具体的に記述」しているのが本書の出色であろう。特徴的な症例のみならず,非特異的な症例や鑑別すべき病態の症例まで網羅し,その1つひとつについて,投薬内容,検査結果,治療内容,経過まで詳細に記載されている。悪性症候群に遭遇した初心者が本書をひもとけば,まるで経験豊富な上級医が傍らにいるかのような安心感を得られるのではないか。殊にL-dopaやECTを使用した実例も記載されているが,そうした経験を持つ医師は身近にそういるものではない。
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