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はじめに
児童期の大うつ病性障害(以下うつ病)は,児童思春期の精神疾患の中で最も頻度の高い精神疾患の1つとされている。しかし,うつ病は,最近までは成人で発症する疾患と考えられ,児童期のうつ病が大きな関心を引くことは少なかった。児童期にうつ状態を体験すること自体は以前より知られていたが,成人と同様なうつ病の存在が児童期に認知され注目されるようになったのは最近のことである。30年前までは児童期には超自我の発達が十分ではなく,うつ病を経験することはないと考えられていた。1978年,Puig-Antichらは,research diagnostic criteria(RDC)を用いて成人うつ病の症状を満たす「定型的」なうつ病が児童期に存在することを報告した8)。しかし,アメリカ精神医学会による操作的診断基準である「精神疾患の診断・統計マニュアル」において児童期のうつ病について言及されたのは,2000年に発行された 第4版用修正版(DSM-Ⅳ-TR)が初めてであり,診断基準となるまで,長時間を要した1)。
最近の疫学的調査の結果からは,児童期におけるうつ病が高頻度に報告されている。しかし,子どもの発達段階により異なった症状群を示すために,臨床的にはしばしば児童期のうつ病は見過ごされやすい。長期的に見て,成人後に,既婚率,社会的・職業的な障碍を残すことが多く,合併する精神疾患を伴うこともしばしばあり,生命の質(quality of life;QOL)が低下することが報告されている。したがって,成人と比較した児童期のうつ病の特徴(非定型性)を理解することは診断的にも重要である。子どものうつ病の診断の際には,特に「うつ」が人間の正常な精神機能の一部であることに留意し,慎重に症状の評価,機能障害の程度,うつ病に類似する疾患の除外を行っていく必要がある。さらに,子どもは,発達段階により異なった臨床症状を示すために,子どものうつ病は見過ごされやすい。したがって発達段階によるうつ病の臨床的な特徴を理解することが重要である。
また,児童期のうつ病の治療に対しての知見も徐々に増えてきており,抗うつ薬をはじめとした複数の治療的なアプローチを組み合わせることが望ましいと考えられている。従来,児童期のうつ病の治療には,成人のうつ病の治療が検証のないままに用いられていることが多かった。そのため,子どもには効果のない薬物が処方されたり,予期されなかった有害事象が出現することもあった。最近,蓄積されつつある子どものうつ病の治療に対しての知見においては,抗うつ薬および精神療法に関してもプラセボ群・治療待ち群との比較が行われ,児童においてはうつ病の治療への有効性や安全性が成人とは異なっていることが明らかになってきている。
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