書評
―日本社会精神医学会 編―社会精神医学
西園 昌久
1
1福岡大学精神医学
pp.819
発行日 2009年8月15日
Published Date 2009/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101480
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わが国における現時点での社会精神医学の到達点
社会精神医学は実践の医学である。カントがかつて「理論なき行為は暴力であり,行為なき理論は空虚である」と述べたといわれる。社会変動やグローバリゼーションの激しい今日,個人の価値観,家族のあり方,集団と個人のかかわり方も著しく変動する。また,個人の自己責任のみで生きていくことは困難である。精神障害の予防,患った人の治療そしてリハビリテーションには社会精神医学的視点とその実践が不可欠なのである。
本書は,その序で「日本社会精神医学会が総力を挙げて作った教科書である。教科書といっても学生向けというより,現時点でのこの分野の到達点を示す意味合いが強い。50人に及ぶ各専門分野の執筆陣にもそのことが示されていよう。」と自負されているようにわが国の社会精神医学会がそこまで実力をつけてきたことを示すのであろう。その「序」にも40年前,懸田克躬,加藤正明共編の『社会精神医学』が刊行されたことが記されているが,それはわが国でまだ,社会精神医学の理論と実践が存在しなかった時期のいわば啓蒙の書であった。それに対比して本書は,この間の40年の精神医学・精神科医療の社会変動とかかわったある種の停滞,混乱それからの再建,進歩の体験を通して到達した内容と考えられる。
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