Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
米精神医学会が出しているDSM-IV以降,DSM-III時代に存在した感情障害(affective disorder)の名称〔ICD-10では気分(感情)障害〕が気分障害(mood disorder)に統一された2,10)。そしてAkiskalは双極性障害を失調感情障害や抗うつ薬による躁転,薬物・アルコール依存を含めてI型からIV型まで分類した(bipolar spectrum;双極スペクトラム)1)。
この双極性障害は診断が困難で,極性診断変更は稀ではなく,単極性うつ病患者の約1割が数年にわたる経過観察中に双極IまたはII型に移行しているという報告もある9)。さらに,単極性のうつ病と双極性のうつ病では治療に用いる第一選択薬が異なるうえに,双極性障害に抗うつ薬を投与して躁転したり症状が不安定化する可能性が高いため,診断には慎重を期し,経過観察も注意深く行う必要がある。
昨今では「依存」あるいは「乱用」という用語がよく使われるが,精神医学的にいう依存症は,その対象を大きく分けると「行為(あるいは習慣)」である場合と「物」である場合がある4)。前者はギャンブル依存症や買い物依存などであり,後者はアルコール依存症や薬物依存症である。さらに,この「行為」における依存を過程への依存(ギャンブル依存症,ネット依存症など)と人間関係への依存(共依存,恋愛依存症など)に区別する考え方もある。ギャンブル依存症は,DSM-IVの「pathological gambling:病的賭博(312.31)」に対照して,ICD-10では「habit and impulse disorders:習慣および衝動の障害」のうちの「pathological gambling:病的賭博 F63.0」として,賭博をしたいという衝動を抑制することが困難で,意思の力では止められず,本人を悩ませたり,日常生活の仕事を妨げるにもかかわらず続けられるといった症状として定義されているものにあてはまる8)。買い物依存の場合,衝動的な買い物行動がエスカレートして百万円単位の借金をしたり,破産状態に陥ってもなおその行動が収まらないことをいい,欧米の文献では「compuslive buying」と名づけられていることから姉尾の論文では「脅迫的買い物癖」という表現が使われている3)。
DSM-IV以来,双極性障害の診断にcomorbidityが本格的に容認され,さらにAkiskalが提唱する双極スペクトラムで,双極性障害に抗うつ薬による躁転のみならず,薬物・アルコール依存,摂食障害,パニック障害などの精神神経疾患や人格障害が共存し得ることが示されている1)。このような状況下で,極性診断変更歴のある双極性障害の男女で,それぞれギャンブル依存および買い物依存という「依存症状」が共存した症例を提示し,その経過および治療について報告し考察したい。
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.