Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
労働者を取り巻く現状と精神疾患
1990年代以降のコンピューター関連機器の急速な普及,情報化社会の到来により,仕事および個人を取り巻く環境が激変した。人の作業能力を上回るコンピューターの使用により仕事の量も密度も増大した。取り引きがグローバル化・24時間化し,コンピューターの知識があり仕事ができる人ほど長時間過度の緊張した仕事を強いられるようになった。メールやインターネットで情報を共有するので人間関係が希薄になり,会社上層部の指示が末端社員にまで直接メールで送られることから中間管理職が不要となり(フラット化),年功序列の廃止,業績主義などが掲げられるようになった。これらを含め数多くの仕事の変化が生じ,職業性ストレスは増加している。
このような社会状況の中,休みも取らず働き続けることによる慢性的な疲労の蓄積や,大きなストレスなどをきっかけに生じる突然死は過労死と呼ばれ社会問題となっている。また,長時間の労働に肉体的にも精神的にも疲れきってしまい,その結果自殺に至ればそれは過労自殺である。2001年に過労による自殺(未遂も含む)を理由に労災申請したのは92人で,そのうち31人が労災認定される状況であったが,2006年の同様の申請は176人で,そのうち66人が労災認定されて過去最高を記録した。すなわち,5年の間に過労による自殺(未遂も含む)による労災申請数,認定数は2倍に増えたことになる。死亡に至らないまでも,精神障害などで労災を申請した人も,2001年の申請は265人でそのうち70人が労災認定されたのに対し,2006年は申請が819人で205人が労災認定されるなど,こちらは5年で約3倍に増加している(2007年厚生労働省発表)。最近では,1か月以上病気で仕事を休んでいる人の15%は精神障害が原因であると報告され,そのうち80%が診断書病名ではうつ病となっている12)。我々も大阪産業保健推進センターと共同して,468事業所での精神疾患病名による休職者の推移を調査したが,2000年度から2004年度の4年間に精神疾患病名で休職した事例数は3.5倍に増加し,その中でうつ病・抑うつ状態という診断書で休職した事例数は4.9倍に増加していた13)。職業性ストレスに関連したと思われるこのような疾患の増大は労働者個人の健康問題のみならず,労働生産性の低下などから社会経済的にも大きな問題となり対策が求められている。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.