書評
カプラン精神科薬物ハンドブック 第4版―エビデンスに基づく向精神薬療法
神田橋 條治
1
1伊敷病院
pp.411
発行日 2008年4月15日
Published Date 2008/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101199
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参ったなぁ。「ハンドブック」の邦訳は「便覧・手引き」であり,原題にはご丁寧にpocketという冠までついている。臨床家はせめてこのくらいの知識は参照しながら日常臨床に携わってほしい,の意であろう。本文中に散見する文言から,著者たちがその心積もりで編さんしているのは確からしい。なのに,不勉強な老医である評者には,本書の7割が新知識である。あるいは青壮年の世代には既知の知識群なのかもしれない。自身で手にとって確かめてほしい。
本書の特筆すべきは,監訳者の1人 神庭重信先生の序にあるように,有害作用と薬物相互作用についての情報が充実していることである。多忙な臨床家は自分が劇薬に類す危険物を生体に注入していることを失念しがちである。また薬物相互作用についての知識が乏しいと,増強療法augmentationなどと言い訳して,己が不明の告白のごときカクテル処方を書き散らす結末となる。評者にとっては,有害作用と薬物相互作用についての記述だけでも,いささか高価な本書の定価に見合う情報である。本書はEBMに依拠して記述されている。思えば,本書を際立たせている上記2つの分野こそは,EBMが得意とするジャンルである。その点臨床家にとって,治療法選択への助言であるアルゴリズムとは対極の位置にある。対立的ではなく相補的関係である。そして,両者を連結して使いこなす技術が臨床の知である。臨床経験の少ないうちはアルゴリズムと本書の知識が直結したような構図であり,臨床経験が増えると2枚の皮に挟まれたアンコがどっさりの最中になる,とイメージしてみると臨床修練への意欲が高まるかもしれない。
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