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はじめに
初診の患者を迎え入れるとき,筆者はいまだにレイマンのような緊張を強いられる。それを少し緩めるように努め,ほどよいレベルに保つことができると,最初の出会いは,治療にとって特権的なものとなる。とりわけ統合失調症に関しては,直観が最も素直に作動する初診の重要性は,強調してもしすぎることはないだろう。
率直に向き合うことができたとき,ほどなくこの疾患特有のストレンジネスを感じる瞬間が訪れる。そうなったら後の探索的な問診はあまり必要ない。問うことの持つ侵襲性を念頭に置きながら,最小限のものにとどめるべきだろう。
何にもまして,でき得る限り早く伝えておきたいことが,とりあえず2つある。1つは「ここで話したことの秘密は守られる」ということ。もう1つは「君に断りなしに,ことをすすめたりはしない」ことである。最初の出会いがある程度うまくいったように思われても,あまりうぬぼれず,多少ぎこちなくてもよいから,この2つだけは伝えておきたい。
精神科医としての修練を積み,少し慣れてくると,それと反比例するかのように,こうした感性は磨耗し始める。筆者も,いくらか自信のようなものが芽生えかけた頃,かえってぎこちなくなる場面が増えて,戸惑った経験がある。そんな折,「もしかして,ここで話したことがどこかに伝わるんじゃないかと心配していない?」と,初心に帰って問うてみた。すると,驚くべきことに,ほとんどの患者が首肯した。
ここですぐさま,こうした患者の応答を自我障害の現れとみなしてしまうと,病理の理解はそこで打ち止めになる。自我障害ならまだしも,無神経にも「妄想」とされてしまうかもしれない。こうなると,患者が正直に話してくれたことへの裏切りである。
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