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はじめに
ここでは,リズィリエンシー(resiliency)という視点から,さまざまな精神疾患の心理特性を比較する新たな試みを報告する。
多様な精神障害に共通する個人内要因の一つとしてストレス脆弱性が挙げられている。たとえば,統合失調症やうつ病は,心理的レベルにおいても脆弱性が指摘されており,ストレスと病状との関連が大きいとされる疾患である7)。摂食障害に関する研究でも,障害の素因,誘因,持続因と,それぞれの段階でストレスが影響しており4),ストレスの知覚の度合いや対処スキルの乏しさなど,ストレスへの弱さと症状との関連が大きい疾患だとされている。人格障害は,情動面や対人関係の不安定さ,そして自己評価が低いことが特徴として挙げられる1)が,対人面での不安定さは,対人場面でのストレス対処能力が低いことに由来するとも考えられる。このように,「ストレスへの弱さ(=脆弱性)」はさまざまな疾患に共通して指摘されてきているが,それが各疾患の間でどのように異なっているかを比較した研究はほとんどみられない。そこで本研究では,精神疾患患者の持つさまざまな特性,特にストレスに対する心的脆弱性に関連する一つの特性として,リズィリエンシーを取り上げる。
リズィリエンシー(resiliency)は,強いストレスからの回復力,復原力を意味する概念である10)。Rutterは,リズィリエンシーを,「心理社会的リスク経験への抵抗」と定義しており,リズィリエンシーのある人は,自尊心,さまざまな問題解決スキル,対人関係に満足しているなどの特徴を有していると述べている。しかし,リズィリエンシーと精神障害についての研究は,近年うつ病に関する研究が増えてきているものの,統合失調症や人格障害では,患者本人の要因としてリズィリエンシーを扱った研究はほとんどみられない。摂食障害に関しても,食行動異常の予防因子としてリズィリエンシーを取り上げ,治療や予防のためにリズィリエンシーを高めるプログラムが試みられている8)ものの,研究はごく少数にとどまっている。しかもいくつかある先行研究も,それぞれの疾患患者内での差異に注目した研究に限られる。そこで本研究ではさまざまな疾患を取り上げ,それらの間で,リズィリエンシーや他の要素がどのように違っているのか,比較を行うこととした。
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